横山裕一「トラベル」

トラベル (Cue comics)

トラベル (Cue comics)

この間買った「ニュー土木」が衝撃的で面白かったので続作の「トラベル」を読む。前作では若干推測されるストーリーや、明らかに作者のユーモアとして提示されている部分もあったが(「有名人」が延々といじられるくだりなんか特に)、今回はそれもない。ただ骨子として、「主人公達が切符を買って、電車に乗って、目的地で降りた」これだけである。そこには何の喜怒哀楽も無い。ただ、過剰にバリエーション豊かな座席があって、過剰にファッショナブルな乗客があって、過剰にドラマティックに誇張されたありふれた風景が窓の外を通り過ぎていく。読者は無表情な乗客に同一化してぼーっと外を眺め文字通りトリップ状態になるか、その世界からあくまで一歩離れて、いちいち過剰な風景や客の容姿に自分の常識とのズレを感じて爆笑しながら読むこともできるだろう。でもこの無感情に進んでいく情景、1冊まるまるを俯瞰してみれば非常に強力なロマンチシズムに溢れていることが判る。最後、一応ネタバレなので詳述しませんが、旅の目的がさらっと描かれている頁は本来どうでもいい所なのかもしれませんが、とても好きです。
しかし漫画というフォーマットでは唯一無二の存在といって良いですが、とても映像的なこの作品、少なくともアイデア的に一番近いのはケミカルブラザーズの「Star Guiter」のPVですよね。↓

この人の漫画、台詞が一切ないんだけど脳の2D→3D変換エンジンが強制的にフル稼動させられるような感じですごく読むの疲れるよ。ほとんどワイヤーフレームみたいな絵だし。こういうの好きなんだけど。