感想:ラーメンズ第11回定期公演「CHERRY BLOSSOM FRONT 345」

彼等のビデオにも残っていないような昔の公演の事についてはよく知らないが、
いつも定期公演には簡潔で謎めいたタイトルが付いている。

NEWS、FLAT、椿、鯨、雀

そしてその次に位置するのが、この11回公演の
CHERRY BLOSSOM FRONT 345
私はこれを

と呼ぶ事にする。

いつも洗練されたシンプルなデザインのジャケットが特徴である彼等のビデオであるが、
今回はがらりと変えて 日本画のようななんとも妖しい桜と月がレイアウトされている。
私はこの絵がとても好きだ。
そもそも桜には色々個人的な思い出があって、それは殆どのものが、
狂気じみた絶望感を伴うものだったり、透明なな悲しみとともに振り返る懐かしさであったりする。


桜は私には特別なものだ。


まあそんな訳で、
駄作だったら絶対許さねえ
とか思ってたんですが。



ラーメンズの作品は結構好き嫌いのはっきり分かれる所であるので断言はできないが、
私はこの作品がとても気に入った。
桜の名前に相応しいものであると思う。
以前どこかのインタビューで、小林氏が、和の美しさが好きだと言っていたが、
この和の代表みたいな桜の名を冠するに当って、相当の気合いが入っていたのかもしれない。


最近の3作品の傾向として、

  • 椿は比較的単純に楽しめる気楽なネタとトリッキーな思考遊びが中心、
  • 鯨はコントの枠も外れたパフォーマンスの実験的な点を重視、
  • 雀は、出てくるキャラクターの面白さ重視というか、小林氏の壊れた人芸を見せる

というような傾向がある。
上の3つの中では雀については少し底が浅いというか、
ネタが切れたのでとりあえず面白いキャラを出してみましたという印象で、
今までの作品より雑な感じもあり全体として良いとは思えなかった。
そこに来た次作の桜ではどういう方向に転がるのか不安だった。

桜は、爆発力のある面白さではないが、後で思い返して笑ってしまうというか、
全て観終ってから長く後を引くじわじわ来る面白さの作品である。
行動の面白さというよりも、会話の組み立ても丁寧に作っているように思う。
確かに今までの路線から大きな変化は見られないし、会話のパーツも今までの作品の中で既に見たような所が多い。
しかし、何か雰囲気が少し変わったと思う。
例えて言うなら、まだこれからがある若者が人生と格闘しながら無邪気に面白がっているような面白さから、
もう充分すぎる程歳を経てしまった大人が、自分の人生を振り返って苦笑するような面白さへ。


それはネタバレになるので詳しくは書かないが、複数のコント間でひっぱっているオチにも認められる。
若いうちには気づかない、人のどうしようもない愛すべき愚かさのようなもの。


ネタの品質的には所々冗長な部分があるものの、いつもより安定して良い。
ただ、プーチンとマーチン2はもう少し短かったらよかったな。
あと、ラストのネタの題名でも分かるが
故深作監督の「蒲田行進曲」を未見の人は観ておいた方が、より楽しめると思う。