第一回「桃園の誓い」

これから人形劇三国志をレヴューしていきたい。のんびりやるので最終回(第68回)まで無事辿り着けるかは俺にも謎。ソースは手元にあるDVD。ぼちぼち買い進めながらやっていくので要するに子供の頃みたおぼろげな記憶以外は初見みたいなもんです。ちなみにこの記事は俺含め三国志素人向けです。あと今回は番組全体に対する言及を多く含んでますので非常に長くなっておりますことご了承下さい。
ひとまず作品自体の概要を。「人形劇三国志」というのはNHKで1982年から1984年にかけて毎週土曜の6時台に放送された人形劇である。昔のNHKは「ひょっこりひょうたん島」「新八犬伝」「プリンプリン物語」に代表される良質の人形劇を夕方枠で制作しており、その流れでの本作品である。人形は浄瑠璃の形式をベースに作られており、主要なカシラ(頭部)200名程は人形劇作家、川本喜八郎の手によるもの。1話約45分、全68話と大河ドラマも及ばない大長編であり、ストーリーは劉備関羽張飛の出会いから、諸葛孔明の死まで。事実上主人公の劉備死後も話が続く辺り、子供向けのくせにかなりガチなのがわかる。基本的に娯楽小説「三国志演義」がベースとなるが、低年齢の子供が観ている時間帯のためか、演義より増して勧善懲悪、劉備陣営寄りになっており、またおよそ日本的倫理観に反するような部分はかなり省略、改変されている。そこが今の自分から見るとちょっとイラっとくる所ではあるが、これはこれ、アレはアレですよね。とまあこれ以上の番組全体のことはWikipediaにでも任せておく。
まずOP。流砂の中から現れ出る「三国志」のエンブレム。当時のNHK特集の「シルクロード」(1980年放送)思い出すな。観てた幼稚園児の自分も関連づけはしてたと思う。あれは当時ニューエイジ音楽の代表格であった喜多郎が音楽を手がけていたので、このOPが細野晴臣のいかにもな電子音も関連性を感じる。時代というやつだな。
まず紳助・竜助が話の解説役として出てくる。今ではふてぶてしい紳助もまだ初々しい。(デビューは1975年)2人の座るスタジオセットの後ろにVTRを映す小窓があるのだが、きっとブルーバックで抜いているんだな。技術が今より未熟でVTRの領域にスクリーンの青色が結構残っている。まずは三国志の時代の説明から入り、次に紳介・竜助の劇中内での移し身といえるキャラ、紳々、竜々の紹介。いきなり2人の前に人形を並べて「これが劇中内の僕たちです」と紹介しているのがちょっとメタで面白い。本作ではこの先でも解説ー劇中が交錯する演出がある。
そしてやっと本編。洛陽の都に権勢を振るう宦官、十常侍達の悪巧み。続いて紳々竜々がいわれのない罪で牢獄にぶちこまれ、わかりやすく国の腐敗ぶりを表している。
関羽劉備の登場。ちなみに本作で名前の読み上げはそれぞれ「関羽雲長」「劉備玄徳」と姓、名、あざなと並べている。中国では古来、名はごく親しい者同士以外は気安く呼ぶのにつかってはいけないらしく(呪になるからだな)、そのかわりに字(あざな)を用意するそうで、それらを並べて名乗るのはおかしいとの事。だから本来は名を抜いて「関雲長」「劉玄徳」と名乗るものだろうが、まあテロップの紹介通り全部読んだほうがわかりやすいよな。
劉備はまさに日本的な仁徳を体現したようなキャラ。通りすがりの困窮した家族の元に自分の財布をそっと置いていってしまう。ボンボンでもないのだからよほど頭のめでたい男だ。しかしその実態は未来の嫁ゲットの為の布石だったりするのかもしれない。この困窮した家族の美しい娘こそが劉備の将来の嫁「淑玲」(オリジナルキャラ)である。しかしこの娘(というかこの一家)も大概頭のネジがゆるんでいて、巷ではやっていた新興宗教、黄巾党に劉備にもらった金を速攻で全額献金してしまう。黄巾について聞かされた劉備はその動向に疑問をもち、いきなりその頭、張角のもとに突撃。意見が決裂する劉備張角のもとに突如警備隊の捜査が入るのだが、そこで出てくる隊長が曹操だ。まだ番組スタート24分だぞ。さすがボスキャラ。登場時期を早めるのもお手の物だぜ。まだ顔見せ程度だが、ここまできて初めて地位がありながら高い見識を持った人間として描写しており、後の重要人物という雰囲気を十分に醸し出している。
ここで解説パートに戻り、紙の切り貼りで作ったと思われる中国地図での黄巾党の勢力範囲の紹介。ノリの水分で紙がたわんでいるのがわかって気になる。この手作り感はいい。
さて先に登場した淑玲の家族は、黄巾党の狼藉に遭い惨殺されてしまう。淑玲も襲われそうになるが、連れ込まれた納屋に先にいたのは飲んだくれの肉屋、張飛翼徳であった。淑玲を抱え、納屋を豪快にぶっこわして歌舞伎ばりの見えを切って登場する様は爽快だ。
黄巾から逃れてきた劉備と、淑玲を助け出した張飛、それに通りすがりの関羽はとある飲み屋で遭遇する。劉備を発見してここぞとばかりに泣きすがる淑玲をきっかけに、3人は世を憂う同士であることを知り、桃園で義兄弟の結びを誓うのだった。とまあここまでが1話。
しかしこれ45分あるんだよな。観てから驚いた。すごく長い。そして濃い。当時観ていた子供達の集中力がよくつづいたものだと思う。初回ということもあってか、構図、演出は非常にドラマとしてオーソドックスだと思う。これが13話、董卓暗殺回あたりになるとぐっと意欲的な感じが増してくる。ただ、話の区切りごとに三国志演義よろしくその章のタイトル画面が入るのだが、そこの演出は最初からかなり凝っている、戦争の場面であれば陽炎がかって、実際にタイトルを書した紙が燃えていったり、タイトルの前を兵士達が走っていったりなど。1話に何回もはいるタイトルの演出に、どうバリエーションをつけるかスタッフも頭を悩ませながら楽しんでいたのではないだろうか。
<キャスト等>
出演…島田紳助松本竜介
声の出演…谷隼人劉備)、石橋蓮司関羽張角)、せんだみつお張飛曹操の部下、洛陽の役人)
伊佐山ひろ子(飲み屋の女主人こと美芳)、長谷直美(淑玲)、劇団若草
岡本信人曹操)、三谷昇盧植
脚本…小川英、田波靖男
制作…久保田弘
技術…川島元
美術…荒木幹夫
効果…大和定次
演出…佐藤和哉

人形劇 三国志 全集 一巻 [DVD]

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